備忘録

この直近の一年間、精神的に塞ぎこんでいたこともあって、ほぼ全ての知人友人とのコネクションを絶っていた。元々連絡無精な性格ではあったが。私はこの春から就活を始める既卒生だ。これからは今まで通りに顔を合わせずに過ごすわけにもいかないし、周囲が次々と就職先を決めて卒業していくなかで、高校時代の同期やかつての恩師、知り合いから何をしていたのか聞かれる機会が非常に多くなってきた。そこで、一々説明するのもかなり労力を要するし、自分がこの貴重な一年を忘れないためにも、私の一年間、特に直近の三か月をログとして残しておこうと思う。というか、以下の文章は、元々インターンを行っていた先の企業が発行している雑誌に記載予定の原稿「私が**で得たもの」(企業名は一応伏せておく)であり、私が一々説明せずともこれを読んでいただければ最近の私が東京でなにをやっていたのかが分かると思う。気が遠くなる程長いので、余程暇であるときか、他人の過去に並々ならぬ興味を抱く物好きならば読むことをお勧めする。それ以外の人間はブラウザを閉じた方がいい。

 

大学四年、就職も進学も何も決まっていない12月の冬に、私は**の扉を叩いた。大学三年の冬、社会の就職の流れに漠然と疑問を感じ、今の社会が必要としているものは何なのだろうかと思考の渦に嵌り、加えて諸事情により精神が完全に参っていた。それで、マイノリティではあるが進学の道を選んだ。だが、進学すると決めてみたは良いものの、研究希望分野以外の勉強に全く力が入らない有り様であった。また希望する研究領域の先行研究の少なさから、受験した大学院では試験でも面接でも悉く落とされる。不合格のショックも相まって、さらに精神的負担が増し、段々と自分が何をしたいのか分からなくなってしまう。今考えると大げさなように思えるが、当時の自分は生きている意味を見出せず、早死にするのが自分と社会のためかもしれない、といったことを本気で考えていた。自他共に認めざるを得ない、手の施しようのない、本当にどうしようもない人間だった。

そんな中、秋から冬になる変わり目の頃に、大学で友人とばったり再会し一緒に夕食をとる機会があった。彼女はAという国際的なNPOに所属しており、国の発展に必要なのはまずインフラであるという考えのもとで就活業界をインフラに絞り、物流系統の大手企業から内定をもらっていた。勿論話題は彼女の就活にも及び、どんな業界であれ、その現実を知るのに一番良いのは長期的なインターンシップであるという事を知った。彼女は三か月とはいかないものの、大小様々な企業の短期・長期インターンに参加し、その経験がいかに自分の業界選びに役に立ったかを教えてくれた。当時の私はもう卒業論文をほぼ仕上げており、大学院の1月にある冬季受験の面接準備をするのみで、ほとんどの時間を家にこもって過ごすだけの毎日であった。ゆえに、この長期インターンという自分では思いつかなかった、新しい言葉に非常に強い興味を示したのである。今思えば、引きこもるばかりの単調な毎日の中で、自分の心のどこかに「このままではいけない」「何かを変えたい」といった思いが燻ぶっていたのかもしれない。

その翌日、初めて長期インターンとは一体どんなものであるのか、インターネットで情報収集を開始した。その中で、自分の探しているものと合致したのがここ、**インターンシップだったのである。まだ「何をしたいのか」という問いに対する答えは持ててはいなかったが、「何を知りたいのか」という問いには辛うじてアンサーが可能であった。卒業論文のテーマをフェアトレードにする程度には関心があり、院での希望研究領域もそれの延長線上で“持続可能なサプライチェーンの現状に関する実証研究”(本当はもう少し細かい)という、ものでもあった。それで、フェアトレードを事業として成功させていて、長期的なインターンを受け入れている**インターン先に決定した。率直なところ、東南アジアなど、現地での学生インターンとして仕事を創り出すものに興味があったが、自分の現在の状況・経済的余裕・英語力・能力等を鑑み、東京オフィスでのインターンを志望した。私は奈良県に住んでおり、大学も大阪の大学に実家から通っていたので、東京で一人暮らしをすることに対しても、両親から強い反対があったのだが、なんとか説得しての上京であった。

三か月というビジネスに参加するには短く、インターンシップとしては比較的長めの期間の中で(**の海外インターンはもっと長期だが)、一般的な事務作業から新規の商品開発、英語資料の作成や日本語訳など、その業務は多岐にわたった。グアテマラのコーヒー生産年次レポートの翻訳作業では、単に英語力が鍛えられるだけではなく、現在のコーヒー生産業がどういった状況下にあるのか、またコーヒーの専門知識、その国の情勢などを深く理解することが出来たように思う。学術的な方面からでしかこういった面に対してアプローチしたことがなかったため、その実情を厳しく数字でリアルに知ることは初めてであった。それは非常に衝撃的で、私たちが普段目にしているグアテマラのコーヒーは、一体どれほどの業者の取り合いの末にここに来たのかというのを考えると、思わずゾッとしたほどだ。コーヒー生産の点に限らず、その国の政治事情や税制など、様々な情報に気を配ることは、理由を知った今となっては当然の事に思えてしまうが、生産者の方々と対等に、本気で向き合い、互いが成長していくのに必要不可欠な要素であると感じた。本気でフェアなトレードを行う**でのインターンシップだったからこそ、そういった点に気づけたと考えている。

 また、市場調査や新商品の開発など、通常の企業インターンでも体験するだろう業務にも携わった。だが、商品には、大手企業や他の食品企業ではない、フェアトレードで高品質な食品を輸入可能である**だからこそ、販売することができて、尚且つマーケットで十分に需要を獲得できる競争力(コンセプトの完成度など)を持つ商品の開発が求められた。商品開発のベース企画は既にある状態で、スタッフの方の手伝いをする程度のものであったが、試行錯誤しながらどんな商品が良いのか、と思考を巡らせ工夫することにやりがいを感じた。個人的には、何かを一から創り出すという創作作業は苦手に感じていたのだが、試作と試食を重ねてより良いものを生み出していく過程は非常に面白く、自分の新たな一面を知る事ができ、良い経験となった。

その他の事務作業、例えば毎日FAXで送られてくる発注書のファイリング整理や輸入されてきたナッツやスパイスの食味検査・検査出し作業などであっても、検査や流通など、商品を仕入れて販売に繋がるまでの工程の多さに、驚きを隠せなかった。さらに、古川さんから生産者の作業工程を、写真を添えてご説明いただき、一袋の商品を完成させるために、現地でもこれだけの作業があるのかと衝撃を受けたのを覚えている。どれか一つでもこの作業が欠けてしまうと、安全でおいしい商品を販売することが出来ないのかと思うと、自然と身が引き締まった。

 学ぶ対象は単に業務内容だけに限らなかった。限られた時間内で、ひとつでも多くのものを吸収しようと考えていたので、オフィス全体の、展示会など大体のスケジュールを把握し、現在チームの皆さんがどういった状況にあるのか、今インターンの自分は何が出来るのか、何が求められているのか、を常に考えながら主体的に行動することを心掛けた。また、フェアトレードをビジネスとしている社会人の方々と直接話すことは、普段の会話からもフェアトレードへの真摯な姿勢や、それによって生じるビジネスへの影響などを直に感じ取れる良い機会であった。加えて、自分の対社会人に対するコミュニケーション能力の上達も実感できた。**のスタッフの方々は気さくで優しく、ご飯に連れて行ってくださり、相談にも乗っていただいた。私の今の状況を決して色眼鏡で見ずに、真剣に向き合ってもらえたことは、感謝しても感謝しきれない。

また、物理的な距離で両親と離れて生活することは、常に対立し苛々しあっていた親子関係を良い感じにクールダウンさせてくれた。互いにぶつかり合うのではなく、相手の意見を一度自分のなかで消化させて(友人や他人ならまだ出来ても、これを家族に対して実践することは以前の私では考えられないことだった)、互いに譲歩しあって着地点を探すことができるようになった事も、私事ではあるが、成長できた点のように感じている。

 常に企業と生産者が対等であり、信頼しあっている関係が無いと、つまり本当の意味でのフェアなトレードでないと、互いにビジネスパートナーとして成長していく事は出来ない、ということが、この三か月で実感した点であるように思う。ゼロから何かを作り出す場合であっても、企業は生産者と対等かつ本気であり続けることこそが、互いを高めていく上で重要であり、それによって長期的な信頼関係が築けるのだと、**の在り方を通じて学ぶことが出来た。学生で、本や論文を読むだけでは気づくことのできなかったビジネスの観点から見たフェアトレードは、思っていたよりもずっとシビアで新鮮で面白くて、持続可能な社会での、フェアトレードが持っている意味や役割を改めて考える良い機会となった。フェアトレードは生産者と企業がフェアに、対等となり、両者を成長させるという点で、扱う商品は自然と高品質のものとなり、互いに対する信頼関係が築くことが可能だという考えに至った。これは、持続可能な社会において必要不可欠な貿易の形であり、企業のあるべき姿勢の一つだと感じている。

このインターンは、自分が何をしたいのか、これからの人生、どんな分野で働いていきたいかの輪郭を見つけ、漠然とではあるが人生を歩むうえでの指標を導いた。さらに、自分自身を客観的に見つめるのに最適な体験であったように感じている。今、この原稿はインターン最終週に書いているのだが、来週から私は進学ではなく就職活動を本格的に開始する。世間一般の目から見た私の就活は「既卒」という、少々敬遠、もしくは問題視されてしまう札を提げている状態だ。しかし、進路に悩み悩んで答えを見つけられたこの一年は決して無駄では無く、確かな自信と共に次のステージを目指している。

フェアトレードを学んでいる学生は勿論だが、何か自分を変えてみたい、どうしていいのか分からないけれど何か行動してみたい、といった思いを持っている学生にとって、**インターンシップは非常に有効に作用することを伝えておきたい。自分を見つめ、成長させる機会を**は学生に向けて提供している。自分が求めれば求めるほど、それだけの収穫・成果・成長が返ってくるような場が用意されている。もし何か道に迷っているなら、勇気が必要なことではあるが、成長の第一歩をここで踏み出すことを提案したい。最後になってしまったが、こんなどうしようもない学生をインターンとして受け入れていただいたスタッフの方々に感謝を述べて、この原稿を締めくくらせていただく。

 

とまあ、こういった濃厚な三か月を過ごしていた。今読み返すと、外部向けの原稿なこともあって、何かの受験の合格体験記のような印象を受ける。何一つ合格やそれに準ずるものに達したわけではないが。

人よりもかなり大きな遠回りをしたお陰で、既卒の札は提げているものの、エントリーし、実際に面と向かって話した全ての企業から高い評価を受けている。大企業のリクルーターから個人的に話を持ち掛けられることもあった。丁重に辞退したが。今のところなので世辞が九割であることも理解はしているが。このあたりの詳しい話は私の口から語ることにする。ので、どなたがここまで読んでいるかわからないけど、ご飯に行きましょうね。先輩同期後輩関係なく、誘ってもらえたら、スケジュールが許す限り出向きます。

要するに、今はわりといい感じに人生を歩いている。今まで体裁の良いことが自分にとっても良いことで、親や先生に褒められることが何よりの「いいこと」だと思っていた。だが、無難で綺麗である程度のクオリティのある学歴に傷がつくのも悪くないなと感じている。エールを呷りながらではあるが。今はインターンの間住んでいた第二の故郷となった街で、引っ越しの都合上ホテルをとって最後の夜を過ごしている。部屋が空いてなく仕方なしではあるが、最上階のスイートをとれたことは、自分へのこの三か月の褒美と思っておく。これからどんな職に巡り合って、どんな人間に出会うのかは全く分からないが、その全てが自分の成長につながるものであれば良いな、といった近い未来をポジティブに考えながら飲む酒は非常においしい。

明日、成田から関西に戻る。私の就活はまだ始まったばかりだ。

 

このクソ長い文章を最後まで読んでくれた読者の方々全てに感謝を述べて、このブログを締めくくらせていただく。私が成長した記録をあなたと共有することができて、嬉しく思っている。ありがとう。